貿易展望
  • ようこそ、貿易展望へ!!
  • 著書と著者の紹介及び料率
  • NO63 部分品付属品
  • NO.62別1別表と貨物等省令の関係
  • NO.61 10%ルール
  • NO.60犯罪捜査にあらず
  • NO.59代金回収の原則の確立を
  • NO.58フロント企業の見分け方と外国ユーザーリスト
  • NO.57フロント企業の見分け方
  • No56一貫したコンプライアンスを!
  • NO55 技術再述
  • NO.54内蔵プログラムと最近の情勢
  • NO53 事後調査と事後審査
  • NO52講演:安貿の基礎と最近の動向
  • NO52の資料のまとめ
  • NO51 3つ程の注意点
  • NO.50安貿管理の出発点と他法令
  • NO49 CPの位置付けと運用上の留意点
  • NO48 技術を大雑把に述べると
  • NO47 貿易実務と安全保障貿易管理
  • NO46 1の項には仕様がない(2017年3月)
  • NO45 外為法から非該当証明書へ
  • NO.44 輸出許可を早期に取得するには?
  • NO.43規制の大筋
  • NO42 審査体制と見聞きしたこと
  • NO.41 CPの提出を!
  • NO.40申請書類を整える
  • NO.39 10%ルール
  • NO.38濃淡管理について
  • NO.37 最終需要者をご存知ですか
  • NO.36規制の詳細
  • NO.35 行政手続法の適用除外とその対処(続き)
  • NO.34 CPの考え方・作り方
  • NO.33 包括許可か個別許可か
  • NO.32 委任立法と制裁について
  • NO.30 安全保障の初歩
  • NO29.明らかガイドライン
  • NO.28 行政手続法の適用除外とその対処
  • NO.27 キャッチオール規制再掲
  • NO.26遵守基準と内部規定
  • NO.25研究等告示について
  • NO.24CA規制貨物の申請
  • NO.23 輸出管理レジームと別1
  • NO.22 リスト規制貨物の申請
  • NO.21イランの経済制裁解除
  • NO.20ビルマ輸出入GL
  • NO.19 事前相談書について
  • NO.18 YANGON港AWT扱い貨物
  • NO.17ご報告:10M27の講演及び今後の展開
  • NO.16陸上装備研究所訪問
  • NO.15 防衛装備庁について
  • NO.14包括許可と個別許可
  • NO.13外国間等技術取引について
  • NO.12役務取引の条文を二つ
  • NO.11規制緩和と安保三原則
  • NO.10事後審査について
  • NO.9輸出しようとする者について
  • NO.8輸出許可基準について
  • NO.7機微度について
  • NO.6安全保障の二つの視点
  • NO.5 防衛装備庁の発足他
  • NO.4 1の項について
  • NO.3許可申請の際の留意点(続き)
  • NO.2:許可申請の際の留意点
  • NO.1防衛装備品の海外移転
  • 契約書のサンプル
 
                               平成29年6月3日
貿易展望だよりNO.52
​テキスト:安全保障貿易管理の基礎と最近の動向

                              永野靖夫
                           安全保障貿易管理士(総合)
                           (貿易アドバイザー協会会員)
 はじめに
 
安全保障貿易管理の最近の主な出来事を、まず、振り返ってみましょう。
*平成25年12月に「国家安全保障戦略について」(注1)が閣議決定されています。
*平成26年1月に国家安全保障事務局が発足しました。
*平成26年4月に国家安全保障会議が設立され、後述の新三原則が施行されました。
(資料1ご参照)
*平成27年10月に防衛装備庁が発足しております。(資料2ご参照)
 
以上の出来事を背景として、以下、お話ししたいと思います。
 
防衛装備移転三原則(新三原則)が関係法令集(注2)第22版のP617-621に掲載されていますので、お手持ちでしたら、ご参照ください。「資料1:新旧三原則を対比する」をご覧になると、新旧三原則の理解が容易になると思います。なお、「移転」とは貨物の輸出と技術の提供の両方をカバーする用語とご理解ください。
 
注1:「国家安全保障戦略について」にて、キーワード検索されるとダウンロード可能です。
注2:関係法令集は、正式には「安全保障貿易管理関連貨物・技術リスト及び関係法令集」といい、日本機械輸出組合、安全保障貿易管理センター乃至は大手書店で購入できます。
 
1.講演を始める前に・・
1)平成27年10月に発足した防衛装備庁については、「資料2:防衛装備庁の組織イメージ」をご参照ください。
2)防衛装備の海外移転について、「資料3:審査体制(防衛装備移転三原則の手続の流れ)」を基に解説します。
以上にて、準備は整いましたので、講演を開始したいと思います。
 
2.防衛装備の海外移転について
平成27年4月1日付けの輸出注意事項26第12号:「防衛装備の海外移転について」にて:-
イ:「防衛装備移転三原則」が新しい政府の方針として閣議決定され、かつ、
ロ:「防衛装備移転三原則の運用指針」(以下、運用指針)が国家安全保障会議で決定されました。従って、この日以降の外為法の運用は、該当する箇所は新三原則及び運用指針により行われています。なお、同時に平成26年4月1日を限り、武器輸出三原則は廃止されました。
 
1)防衛装備移転三原則(新三原則)
 新三原則に簡単に触れますと、以下の通りです。関係法令集をご参照願います。
 
➀原則1:移転を禁止する場合の明確化
a)我が国が締結した条約その他の国際約束に基づく義務に反する場合
b)国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合
c)紛争当事国(注)への移転となる場合
注:紛争当事国とは、武力攻撃が発生し、国際的な平和及び安全を維持し、又は、回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国をいう。
 
➁原則2:移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開
 移転を認め得る場合は、次の場合に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査を行う。
a)平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合
b)我が国の安全保障に資する場合
イ)国際共同開発・生産の実施
ロ)同盟国等との安全保障・防衛分野における協力の強化
ハ)自衛隊の活動及び邦人の安全確保
 
➂原則3:目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保
  原則2を満たす海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定する。具体的には、原則として、我が国の事前同意を相手国政府に義務づける。ただし、平和貢献・国際協力等の場合においては、仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とする。
 
2)防衛装備移転三原則の運用指針
新三原則の運用指針が以下のごとく定められています。なお、条文の詳細については、関係法令集をご参照願います。
 
➀防衛装備(注)の海外移転を認め得る案件・・原則2に対応。
a)平和貢献・国際協力に資する海外移転(積極的意義がある場合に限る)
b)我が国の安全保障に資する海外移転(積極的意義がある場合に限る)
注:防衛装備に当たるか否かは、当該貨物(技術)の形状、属性等から客観的に武器専用品(専用の武器技術)と判断できるものとし、いわゆる汎用品は防衛装備には該当しないものと判断されている。
 
➁海外移転の厳格審査の視点・・原則2に対応。
仕向先及び最終需要者の適切性、又、当該防衛装備の海外移転が我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度・・を考慮して厳格に審査する。
 
➂適正管理の確保・・原則3に対応
海外移転後の適正な管理を確保するため、目的外使用及び第三国移転について、我が国の事前同意を相手国政府に義務付けることとする。ただし、次の場合には、仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とする。
a)平和貢献・国際協力の積極的推進のため適切と判断される場合
b)部品等を融通し合う国際的なシステムに参加する場合
c)部品等をライセンス元に納入する場合
 
3.申請してみないと・・
 
 輸出許可申請後の流れは、資料3:審査体制(新三原則の手続の流れ)となります。過去に審査の実績がない案件は幹事会に上申されるとされ、幹事会で結論が出ますと、経済産業省経由で輸出許可申請者に対して、許可・不許可の結論が通知されてきます。
さて、政府の方針が武器輸出三原則から新三原則に変ったことになります。しかしながら、外為法が改正された訳ではありませんので、我々、許可を申請する立場の人間にとっては、実際に申請してみないと、どう運用されるのか判らないのが実情です。従って、新規の案件は当然のこととして、今まで、申請したけれど、許可されなかった、或いは、申請を見合わせていた案件は、改めて申請してみる価値は大いにありましょう。
 なお、このように、移転のルールがはっきりしてきましたので、海外の顧客に説明しやすくなったといわれています。
 
4.安全保障の基礎  
 
 結局のところ、安全保障貿易管理を理解するには、関係法令集を読みこなしていく以外にありませんが、最初から条文に取り組んでも中々理解が難しいと思います。そこで、以下の点を予め理解してから、関係法令集を読み進まれることをお勧めします。なお、話を容易にするため、本項では貨物を前提に話を進めさせて戴きます。
 
1)1の項について 資料4:1項貨物・・武器
 1の項の貨物として、どんな貨物が記載されているかは、「資料4:1項貨物・・武器」をご参照願います。以下、1の項の留意点について述べていくことにしましょう。
➀他の項と違い、1の項の貨物の仕様は、貨物等省令には規定されていません。その代り、大部分の貨物に「解釈」が付されていますので、ご留意ください。

➁「軍用」の貨物が規制対象になっています。従って、いささかでも「軍用」と見られる可能性がある場合で、経産省等に事前に相談に行くことをお勧め致します。他の項についてもいえることですが、決して自分勝手に解釈をしないことが肝心です。

➂「武器製造関連設備は防衛装備に準じて取り扱うものとする。」(防衛装備移転三原則前文)とありますが、具体的には、武器製造関連設備は1の項の(15)及び(16)が該当するとされています。なお、防衛装備とは武器及び武器技術をいいます(P618右側)。

④「(17)軍用の人工衛星又はその部分品」ですが、13の項(2)にも人工衛星が掲げられています。従って、もし、13の項(2)に非該当であっても、1の項(17)に該当してくる可能性が出てきます。この場合、1の項(17)には解釈がありませんので、経産省にデータを持参して、該非の判定を仰ぐ以外にありません。これに限りませんが、複数の項に同じ品名が出てくるケースがありますので、「輸出令別表第1・外為令別表用語索引集」(日本機械輸出組合発行)を参考にされると良いでしょう。
 
2)リスト規制が補完的輸出規制に優先する  資料5:輸出令別表第1、外為令別表と貨物等省令
 この点、何処に規定されているのかとの質問をよく受けますが、以下の箇所を読むことにより納得できます。
QUOTE 
16項貨物:補完品目(P416):-
「関税定率法別表第25類・・又は第95類に該当する貨物(1から15までの項・・に掲げるものを除く。)」
UNQOT
これにより、リスト規制品(1から15までの項)をチェックし、非該当と確認したら、16項貨物の該非に進みますので、「リスト規制が補完的輸出規制に優先する」ことになります。
 
3)ホワイト国は何処に規定されているか
 「ホワイト国」は、輸出令別表3に掲げる地域をいい、法律用語ではありませんので、この言葉はどの法令にも出てきません。一方、16の項の規制対象地域をみますと「全地域(輸出令別表第3に掲げる地域を除く。)」とありますので、16の項の貨物の規制対象地域からホワイト国が除かれていることが判ります。
なお、「ホワイト国」という概念は補完的輸出規制の16の項に係る概念であって、リスト規制には関係ありません。因みに、海外でもこの言葉は通用しません。
 
4)機微度の観点から整理する
  以下のごとく、機微度の観点から順序付けて理解しておくと、条文が判りやすくなります。但し、法律に明記されている訳ではありませんので、目安とお考えください。

➀貨物
a)「武器」は、「輸出貿易管理令別表第1の1の項に掲げるもののうち、軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいいます。   
↓ 
b)他の1の項の貨物で、直接戦闘の用に供されないもの。
   ↓
c)14の項(1の項の武器以外の軍用品)、2の項:原子力、3の項:化学兵器、3の2項:生物兵器、4の項:ミサイル
   ↓
d)5から13&15の項の貨物で、汎用性のあるもの(軍用にも民生用にも使える貨物)
(なお、当該貨物の輸出許可申請をしますと、審査官は軍用にも使えるのではないかとの観点から審査してきますので、ご留意ください。軍用に使われないのであれば、その旨明白に、文書で説明することが肝要です。)
   ↓    
e)民生用の貨物、例えば、医療機器、農業用機械、食品機械、製紙機械、繊維機械等・・
但し、本体は規制対象外としても、部分品が規制対象であって、本体から切り離されて輸出される場合、例えば、クレームが付いたので当該部分品のみを積み戻すような場合は、規制対象となりますので、注意が必要です。
 
➁国
a)別4地域(懸念3ヵ国)・・イラン、イラク、北朝鮮
・・包括許可と少額特例は適用できません。
   ↓
b)輸出令別表第3の2に規定されている国連武器禁輸国・地域の10カ国(但し、イラクと北朝鮮は重複しています)。最近、リベリアが外れ10ヵ国となりました。
 ・・包括許可は適用できず、全て個別許可となります。
 ↓
c)一般国・・ 「ホワイト国、別4地域及び国連武器禁輸国・地域を除いた国」を指します。
 ↓
d)ホワイト国(輸出令別表第3に規定されている27カ国)
・・キャッチオール規制(補完的輸出規制)の対象外の国を指します。
 
➂告示貨物・・
貨物の中で機微度が高い貨物は告示貨物と呼ばれ、輸出令別表第3の3にまとめられています。関係法令集では(告示)と表示されています。
 
④付表技術
技術の中で機微度が高い技術は付表技術と呼ばれ、提出書類通達の別表2の付表
(P710-P711)に記載されています。関係法令集では(付表)と表示されています。
 
5)「輸出しようとする者」
外為法の規制対象は「輸出しようとする者」です。即ち、輸出したら(BL DATEで確認)、それ以降は外為法上は免責となります。
但し:-
➀社会的責任は、当然のことながら、その後も存続しますので、社会的責任が追及される可能性は残ります。
➁「外為法上免責」となるためには、外部からの問い合わせがあった場合、外為法を遵守している旨の記録といつでも即刻提示できる態勢の整備が必要です。
➂立証責任は「輸出しようとする者」にあります。
→輸出管理内部規程(CP・・資料6参照)を制定し、それに則り適切に処理したことの記録を残すことが望まれます。
 
5.安全保障分野の留意点と対応策
 
1)企業としてのリスク
 悪意を持った需要者等(注1)が彼等の真意を隠蔽するであろうことは、想像に難くありません。しかし、この点に十分注意したにも拘らず、輸出者等(注2)が需要者等の真意を見抜けなかったとしたら、どうなるでしょうか? この場合、関係法令を遵守し、その旨を後述するCP(COMPLIANCE PROGRAM)(注3)等により証明できれば、法的な責任は追及されないでしょう。しかし、見抜けなかったことによる企業イメージの低下や、これに対する世間一般からの非難を招くことになりかねません。このように、単に法律を遵守したというだけでは、企業の社会的責任を全うできないところに、安全保障の恐さがあります。
注1:需要者等とは、貨物の需要者又は技術を利用する者をいいます。
注2:輸出者等とは、貨物の輸出者又は技術の提供者をいいます。
注3:CPとは、輸出管理内部規定をいいます。資料6をご参照ください。
 
2)行政手続法の適用除外
 さて、外為法第55条の13の見出しは「行政手続法の適用除外」となっており、そこには「行政手続法第2章及び第3章の規定は適用しない」と規定されています。そこで、これらの二つの章の主旨をまとめますと、「・・許可するかどうかの判断基準を定めなくても良く、又、不利益処分の判断基準を公にしなくても良い」・・となります。
 従って、前回許可されたからといって、今回も同じ条件で許可される保証はありませんので、全ての契約は政府許可条件付で締結せねばなりません。依って、契約書には、“This contract is subject to an approval of Japanese Government.”・・といった主旨の文言を必ず入れておくことが肝要です。
 
3)外為法上の行政処分と罰則等
安全保障の分野における行政処分と罰則等は、以下のごとく、他の分野とは比較にならぬほど、厳しいものがあります。
 
➀報告徴収
 経済産業大臣は法律の適用を受ける取引、行為等を行った者に対し、内容その他の報告を求めることができます(外為法55条の8)。
 
➁立入検査
 経済産業大臣は職員をして、法律の適用を受ける取引又は行為を業として行う(メモP1参照)者の営業所等に立ち入り、帳簿等を検査させ質問をさせることができます(外為法第68条第1項)。
 
➂行政制裁
 経済産業大臣は、無許可で貨物の輸出乃至は技術の提供した者に対して、3年以内の期間を限り、全貨物の輸出又は全技術の提供の禁止ができます(外為法第53条第1項)。この場合、時効はありません。従って、事実関係が明確になれば、いつでも経済産業大臣の判断で行政制裁は下せますので、裁判と違い、すこぶる早期に、かつ、いつでも下せることになります。私の承知している限りでは、事案が公になってから3-4ヵ月で行政制裁が下されています。

 実際問題として、3年間貨物の輸出乃至は技術の提供を全面的に禁止されたら、当該企業は殆ど立ち行かなくなりましょう。従って、罰則よりも行政制裁の方が当該企業に取り、インパクトが大きいといえるでしょう。
なお、外為法違反が発覚しますと、経済産業省のホームページに企業名と外為法違反の概要、罰則や行政制裁の詳細が公表される場合があり、そうなると当該企業の信用は大打撃を受けることは言う迄もありません。
 
④罰則
 外為法に規定の貨物・技術に対して、いくつもの罰則規定が設けられていますが、この内、最も厳しい「核兵器等の開発等」を例に取ると、概略、以下のごとくとなります。
即ち、「核兵器等の開発等」に用いられるおそれがある貨物・技術を無許可で輸出・取引をした者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又は、これを併科するとされています。更に、目的物の価格の5倍が1,000万円を超えるときは、罰金は当該価格の5倍以下となっています(外為法第69条の6第2項)(注)。又、違反行為をした場合、行為者を罰するほか、その法人に対しても罰金刑を科しています(外為法第72条第1項)。これは両罰規定といわれているものです。
 一方、貨物に関しては未遂罪も適用されます(外為法第69条の6第3項)が、技術の提供に関しては、未遂罪は存在しません。
 注:2017年6月18日に閉会となる第193回通常国会において、1,000万円が3,000万円に増額されています。

4)輸出者等遵守基準     資料6:遵守基準と内部規程
 このように外為法には、厳しい罰則と行政制裁が設けられており、では、どうこれに対処するかが問題になってきます。そこで、外為法では、輸出者等遵守基準(以下、基準)を設けることが、法的義務とされました(外為法第55条の10~第55条の12)。義務ですので、それを怠れば、罰則の対象となりますが、本件の場合は間接罰とされています。これは、経済産業省が「指導・助言」し、「勧告」を行った後、従わない場合に「勧告」に従うよう、「命令」を出し、それでも、なお、従わない場合に、初めて「罰則」が課せられるということです。
​
さて、基準において当該輸出者の貨物が補完的輸出規制の対象貨物のみの場合は、該非確認責任者の選任と法令遵守のための必要な指導を行えば、「最低限問題ない」とされています。一方、リスト規制対象貨物を扱う場合は、「輸出者等遵守基準を定める省令」第1条二号イ~リを遵守せねばなりません。
 
5)輸出管理内部規程 
 今迄、基準について、述べてきましたが、これと似た概念で輸出管理内部規程(以下、規程)(注)があります。これは従来よりいわれてきたコンプライアンス・プログラム(COMPLIANCE PROGRAM、以下、CP)を指します。以下、解説していきましょう。
注:以前は輸出管理社内規程と称していましたが、大学や研究機関等も規制対象とされたため、現在は輸出管理内部規程と称されています。
 
①規程は基準より高レベル             
​ 
規程では、基準よりも高レベルの輸出管理体制が整備されねばなりません。例えば、基準では、努力目標とされている第1条二号「ヘ:監査」、同じく「ト:研修」、及び、同じく「チ:文書保存」は、規程では義務となっています。即ち、基準では、「努めること」になっていますが、規程では、「実施すること(保存すること)」が求められます。
さて、規程を策定し、安全保障貿易検査官室に提出しますと、以下の特典が付与されます。
イ.包括許可(注)制度の利用が可能となります。即ち、包括許可申請の一要件を満たしたということです。
ロ.輸出許可申請において、優先的に審査されます。これはファーストトラック審査と称され、輸出管理を的確に実施している許可申請者に対しては、経済産業省等は審査期間を極力短縮していこうということです。
ハ.公表を希望すれば、安全保障輸出管理のホームページに企業名が掲載されます。但し、実績がない企業は掲載されません。
ニ.政省令改正の最新情報がメールで送られてきます。
 なお、規程の策定は法的義務ではありませんので、罰則規程はありません。即ち、規程を提出すれば、上記イ~ニのメリットが享受でき、提出しなければ、享受できないということです。
注: 包括許可とは、一定の条件下で許可を取ると、当該許可が一定の期間有効となり、その間、個別許可申請は不要となる制度を言います。特別包括、特定包括等のいくつかの種類があります。
 
➁企業の社会的責任
 企業がその社会的責任を全うするためには、単に法律を守っているだけでは、不十分です。そこで、規程を策定して、輸出管理を適切に実施すると共に、経済産業省等から問合せがあったとき、何時でも素早く回答できる必要があります。
 規程の策定は、まず、法令遵守の基本方針を宣言すると共に、以下の事項を定めていきます。・・輸出管理体制の明確化、取引審査、出荷管理、監査、教育、資料管理、子会社等の指導、報告及び再発防止・・
 なお、資料6に規程の概要を掲げておきましたので、ご参照ください。
 
6)輸出管理部門の役割
 さて、今まで本テキストで輸出者という用語を使ってきましたが、輸出者は、輸出管理部門と営業部門に大きく二つに分けられるでしょう。そこで、両部門の関係はどうあるべきかですが、輸出管理部門は代表権を有する者をその最高責任者として、営業部門から独立した存在である必要があります。
そして、営業部門が規程や基準(規定等)を遵守しているかどうかについて、輸出管理部門独自で判断でき、かつ、規程等を遵守していない場合には、取引を差止めるだけの権限を持っていなければなりません。この点、明確に定めておくことが大切です。
http://www.bouekitenbou.com/no50122882343320840204453855636031261313164929702123982252230990123922636836817123982067021521.htmlNO.50 安全保障貿易管理の基礎と最近の動向
パワーの元は、 カスタマイズ可能なテンプレートを使用してあなただけのウェブサイトを作成しましょう。